伊藤新道 黒部の山賊を偲ぶ

黒部の山賊

名著、黒部の山賊。

三俣山荘を皮切りに、水晶小屋、湯俣山荘、雲ノ平山荘を開いた伊藤正一さん(2016年死去)の著書です。
まだ20代の頃に当時の三俣小屋を買い取ることになったものの、小屋は「山賊」に占拠されているとかなんとか、恐ろし気な情報が飛び交う戦後の混乱期。
そんな状況で、小屋の様子を見に行くべく自らの素性を隠して泊まりに行き、夜は懐に隠した刃物を握りしめながら床に就き、自分の小屋に宿泊代を支払って、しかも若干まけてもらったという、色々と面白そうなところからストーリーが展開します。

三俣山荘でも販売されていますが、今は便利な世の中、ポチれば買える。
誤解を恐れず言うなれば、これを読まずして黒部源流界隈に入るのは、ドラゴンボールを知らずして、週刊少年ジャンプが好きだというようなものです。

なんか有名ぽいから一度読んでみようかな、ぐらいの気持ちで手に取ったが最後、本を置くことができませんでした。
一応父にも勧めてみたところ、老眼をものともせず、あっという間に読破して熱く感想を語ってくれました。
四の五の言わずに、とりあえず読むべし。

1ページ目から、グイグイ引き込まれて、まるで著者と対話しているかのようです。
そんな正一さんが、整備した「伊藤新道」。
伊藤新道は絶対に歩きたい、歩かずに死ねるかと思っての2023年8月の山行でした。

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1日目 七倉山荘~湯俣晴嵐荘

七倉山荘までは普通に車で来ることができます。

ここから高瀬ダムまではタクシー利用で、2時間分の行程をお金で買います。
ちなみにPayPayで料金を支払いたくても、高瀬ダムは電波が入らないため、使えません。
なお、お帰りの際は、公衆電話からタクシーを呼ぶことも可能です。

タクシーを降り、いよいよ黒部の山賊を偲ぶ旅がスタートします!
付近には、やたらと花が大きくてうつむき加減のアザミっぽい花が咲いていました。
後ほど調べたところ、フジアザミというらしい。多分。

今日の行程は、湯俣晴嵐荘までほぼ水平移動の3時間のみという、夏休み初日にやさしいもの。
高瀬ダムの抹茶クリームソーダみたいな色が、我々を浮かれさせます。

下界よりマシとは言え、やはり8月は暑い。
しかも今日の行程には、沢がありません。
汗だくになりつつ、「いや~、ビールがこわいな~」と、いつもの戯言を言いながら歩きます。
しばらくは舗装路を歩きますが、途中トンネルがあるので、ヘッデンは出しておいた方がいいでしょう。

途中に小さな流れがあれば、即じゃぶじゃぶして英気を養います。

そんなこんなで湯俣に到着、晴嵐荘へは川を渡るために、ジップライン的なものを使います。
2023年時点ではこうでしたが、かつては橋があったこともあったり、川を歩いて渡渉するしかなかったりしたようです。
面白そうだし、今日のところはジップラインを利用。

人が多いと待ち時間が長くなりそうです。
水量によっては、登山靴を脱いで、川を渡ったほうが良いかもしれません。

この日はテント泊。
受付は強面で無愛想な男性でしたが、後に我々は、その強面でも隠し切れない良い人さを知ることになります。

さっそく一名死亡。
仕事終わりに夜通し走ってきたのが、効いたのでしょう。

そんな彼をやさしく受け止めているのは、エバニューのFPマット。
パーティー全員が持参しています。
いやホント、これは重宝します。

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2日目 晴嵐荘~噴湯丘~幕営地

いよいよ伊藤新道へ入る!
黒部の山賊ファンとしては、ウキウキが止まりません。
装備も沢仕様にして、意気揚々とはまさにこのこと。
ジップライン、何それ?と調子こいて、川はじゃぶじゃぶ渡渉し、右岸を歩いて取水堰の脇を通り抜けます。

そこからは、渓谷美と伊藤新道のロマンとのコンボが炸裂します。
特に技術や体力がなくても、野湯目当ての人も来ることが出来るため、ヒャッハー!みたいな人もチラホラいました。

途中、あっつあつのお湯がわく河原があり、乳白色の水流も相まって、非日常感が渋滞します。

噴湯丘では、お約束のポーズ。
浮かれていますね。

そして野湯でまったり。
道草食いまくりです。
温泉成分で傷みそうなので、ギア類は外して湯につかります。
このままここで、熱燗で一杯やりたいくらいです。

そして間もなくガンダム岩へ到着。
2021年に、死亡事故があった場所です。

水量が少ない場合は、岩の下部を水線沿いに歩いて通過が可能です。
この日は非常に水が少なく、楽に突破できましたが、それでも腰まで水につかります。

水量によっては、別の方法で突破しなければなりません。
道もなく、パーティーの装備や力量などの、その時の状況に応じて判断して進むのが沢登り。
危険だけど、いや、だからこそ楽しいんです。

しかし今回のルートは、沢登りと言うよりは河原歩きに近い。
しかも大変よく整備されていて、ガンダム岩にも足場やロープが設置されており、かなりハードルが低くなっています。
とはいえ、一般登山道しか歩いたことがない人が、単独でいきなりというのは危険かもしれません。

渓相がなんとも独特で美しく、やはり浮かれざるを得ません。
硫黄成分が水に含まれているため、温泉地特有の色合いです。
魚がいないのは少々さみしいですが、コケが生えないのでラバーのグリップが効いて快適。
この日は快晴で水量も少なかったため、浮かれていられました。
これが嵐の日で増水していたら地獄であろうことを、谷に刻まれた自然の水位線が雄弁に語ります。

ルート整備中の、圭さん(正一さんのご長男。伊藤新道は廃道となっていたのを再整備し、湯俣山荘も改装して再オープンと、精力的に活動されています)発見!
ひとしきり、話に花が咲きます。
あ、私もクラファンで一か月分の酒代くらいは寄付しました。


こうして道草食いまくりで、きゃっきゃ言いながら幕営地を目指します。
今回のお宿は、水が取れそうなワリモ沢出合いがよかろうと考えていましたが、到着してみれば、たった4時間半ほど歩いただけで、まだお昼前。

「どうします?まだ、だいぶ早いですよ?」
「そうですよね、もう少し先に進んでおきたいけどなぁ。」
「でもこの先、地形図を見ても、水が取れて快適に寝られそうな場所はなさそうかな?」
「え~、じゃぁここで幕営?今から乾杯?」
「いや~、仕方ないな~」

という、毎度のお約束が発動。
しかしこれが良かった!
いつもの沢登りだと、夕方からタープ張って薪を集めて寝床の支度して、とあわただしいのですが、なんせ昼から「ここにステイ!」となったので、水遊びのし放題です。

お酒を片手に光合成しています。
すごいエネルギーを生成できそう。

ほらほらー!背中から水ぶっかけちゃうぞ!


そしてビールが、

うまい!!!

本人は、サッポロビールからCM出演のオファーが絶対来るはずだと申しておりました。

幕営場所ですが、あまりよいスペースがなかったため、笹やぶを切り開きました。
なんせ時間に余裕がありますから。
私も自分が寝るスペースを作ろうとヤブを切っていたところ、なんか踏み跡みたいなものがあるのに気づきました。
おそらく獣道でしょう。
あまりにはっきりとした獣道だったので、興味本位で覗いてみたところ、ちょうどいい立ち枯れた木がありました。
これはいい燃料だ!と夢中で採取していたら、ふと香るケモノ臭。
熊でもいたのでしょうか。
寝るときは、熊スプレーを握りしめて寝ることにします。

三日目 幕営地~三俣山荘

朝は定番の、「起きたら負け」大会開催。
誰か火を起こしてくれないかなーと、タープの端からこっそり様子を伺いつつ、互いに空気を読みあいます。
根負けした人が火をおこし、お湯もわいたころに寝床から出てくる不届き者ですみません。

起きたら、朝食のための水をワリモ沢から汲み、浄水します。
湯俣側は硫黄が含まれているので飲めませんが、ワリモ沢の水は地形的に多分大丈夫。
一応浄水していますが、浄水器はグレイルのものを使っています。
プラティパスの口に接続してぎゅーっと絞り出すタイプの物は腕が疲れますが、これならざばっと水を汲んで体重をかけてプレスするだけなので、愛用しています。
腰にぶら下げておけば、水が飲みたくなったら足元から水をさっとすくって、ぎゅっとプレスして、そのまま飲めるという優れもの。

または、「お祈り」という方法もあります。
どうか当たりませんように、と祈る方法です。

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今夜は三俣山荘で宴会だ!
その思いを胸に遡行していき、赤沢との出合にまでやってきました。

地形図を見ながらの作戦会議では、湯俣川の北側から入ってきている支流との出合に幕営のチャンスがあるだろうと考えており、ワリモ沢と赤沢が候補に挙がっていました。
南側は硫黄が噴出しており、そちらからの支流の水は飲めないからです。

赤沢という名の通り赤い!
しかし幕営好適地はなく、ワリモ沢で泊まっておいて正解でした。
この赤沢を渡渉し、徐々に高度を上げていくと、眼下に広がるこの景色。
谷間を流れる流れの色が、温泉地独特のミルキーな色合いです。

ルートは水線を離れ、樹々の間を暑い暑い言いながら歩きます。
いやー、今日もビールが怖いなー。

樹林帯を抜けると、ビール・・・じゃなくて三俣山荘はもうすぐです。
赤い屋根が見えてくると、ウキウキします。
正一さん、あなたが拓いて息子さんが復活させた道を歩いて、来させてもらいました。

そして到着、三俣山荘と鷲羽岳の変わらぬ景色。
何度来たかしれません。
ポイントカードありませんか?


そしてまた尊い犠牲が。

夕食後の食堂では、スライドショーが上映されていました。
この日は台風が接近していたため、小屋は大変空いており、静かな夜でした。

4日目 三俣山荘~晴嵐荘

今のところは、台風?ほんとに来るの?ぐらいな良い天気。
出発するのが名残惜しいですが、またいつでも来られるし、と自分に言い聞かせる。

帰路も、来た道を帰ります。
時間が許すならば、そのまま鷲羽を超えて薬師沢小屋まで、けいこに会いに行きたい。

この高さに吊り橋があるということは、ここまで増水するということですね。
今は水が少なくて平和そのものですが、渓というのは恐ろしい。
吊り橋のおかげで、安全に渡れてありがたい限りです。

帰り道は予定よりも時間に余裕があったため、またもや温泉遊びです。
川のいたるところからお湯がわいています。

すごい勢いでお湯が噴出しています。
気を付けないと、本当にやけどします。

そして湯俣山荘に到着。
ここで後泊というぜいたくプラン。
事前情報によれば、お酒の種類が豊富らしい。
でも夕食はカレーなんだよな、カレーはつまみにならないんだよな、なんて思っていたのは秘密です。

とりあえず宴会ですよね。
もう4日めですが、おつみまみは抜かりなく準備されています。
とても大切なことです。
乾燥マッシュポテトは軽量な上に手軽にお湯で戻せて、チーズやツナを混ぜるとつまみになります。

そしてウワサの噴湯丘カレー。
これがおいしい!
つまみにならんなんて言って、申し訳ございませんでした。
このカレーは、宿泊しないと食べられません。

朝食も大変おいしゅうございました。
写真撮っておけばよかったですね。
手作り和食で、これまで食べた山小屋の朝食で一番だった気がします。
食後はコーヒーを頂きつつ、小屋のご主人とまったりお話しました。
このご主人が一見無愛想で強面なんですが、大変気さくで親切です。
これまであまり注目してこなかった小屋ですが、お気に入りの小屋のひとつになりました。

下山後の楽しみ 
くんくん亭でチキンカツ

大町市にある「欧風家庭料理くんくん亭」は、グローブみたいにでかいチキンカツで人気です。
さっくさくジューシーに揚がったチキンカツに、ご飯がすすむデミグラスソース。
よっぽどたくさん食べられる人でなければ、レギュラーではなくてミニをおすすめします。
レギュラー×ライス大盛にチャレンジした人は、かたむけたら口からカツがこぼれそうなくらいに満腹になっていました。

食後のデザートに、くんくんのプリンも大変おすすめです。
そのためにも、ミニサイズがいいと思います。

駐車場もたくさんありますので、アクセスも楽々。

万が一満車だったり、近隣の散策をしたかったり、三俣山荘図書館によりたい場合は、この駐車場がおすすめです。
市営の無料駐車場で、トイレもあります。