尾白川 鞍掛沢~乗越沢~日向山 山で出会った人と沢登り

O川と一緒に鞍掛沢

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山でたまたま出会った人と、後日一緒に山に行くことってありますか?
私はありません。

ですがなぜか今回は、一緒に沢登りに、しかも一泊で行くことになったというお話です。

O川(愛知県:29歳)とは、2024年の夏に湯俣晴嵐荘で出会いました。
五本指のビブラムによる靴擦れで足がズタボロになったO川を見て大爆笑した、タチの笑い酔っぱらい3人組、それが私たちです。

その日は私たちと、O川の2人パーティーしか宿泊者がおらず、深夜まで大宴会を繰り広げましたが、実のところO川は一滴も酒を飲めません。
にじみ出る「イイやつ」感を妙に気に入った私たちは、O川にからみにからみました。
O川が奥穂で彼女にフラれた話を酒の肴にしたのは、いい思い出です。

普段、山で出会った人と連絡先を交換するようなことはないのですが、ご縁なのか酔った勢いなのか、なぜかLINEを交換し、もし沢に行きたいのなら連れていってあげるよ、となった真夏の夜の夢。

しかし、本当に行くことになるとは、シェイクスピアも想像すらしなかったことでしょう。
O川は前々から沢に興味を持っていたものの、やはりハードルが高くて行けずにいたらしく、私の申し出は渡りに船だったそうです。

しかし、初めての人を沢にブチ込むのであれば、自分が行ったことがあって、危険が少なく、それでいて美しい沢がいい。
そんなワガママを満たしてくれるのが、鞍掛沢です。

O川と鞍掛沢に行くよ!と伊藤新道の時のパーティーに報告すると、アイツぜってーいいヤツだよ!とか、五本指で来てほしい!とか、話題沸騰でございました。

後に聞いたところによると、晴嵐荘でご一緒した際のお風呂では、

「あー!タオル忘れた!」
「手拭いならありますよ」
「おー、どれどれ・・全然拭けないじゃないか!どうなってんだO川!」

という、理不尽なやり取りもあったそうです。

まさかの五本指 使わなかったけど

駐車場から入渓まで

尾白川渓谷駐車場で待ち合わせ、車を1台にまとめて矢立石駐車場へ向かうことにしていますが、今回は普段と違って土日だということを忘れていました。
駐車場には誘導員が複数いて、朝8時前の段階で残りスペースが約10台とのこと!
この駐車場に車を停めて川遊びができるらしく、真夏の時期はかなり混雑するということを聞いていましたが、ここまで混雑するとはナメてました。

ちなみにこの駐車場の先にキャンプ場があり、車で行くことができますが、道は死ぬほど狭いです。
車の幅ギリギリな道の上に、途中に電柱(?)があって、マジやべぇとしか言えません。

黒戸尾根へも、ここから

沢で一泊なのに、O川の荷物がクッソ小さい。
睡眠の快適さを限界まで犠牲にした、軽量化の結果らしいです。

ロープは、私の30mシングルロープ。
使う場面はない沢ですが、沢は何があるか分かりませんので、必ず持参します。
そしてO川に担がせます。

「このザックにロープをつけてみたかったんですよ」

O川は満足気です。

そんなO川は一応ハーネスを装着していましたが、なんとランヤードがない。
ハーネスを使うようなアクティビティに手を出す場合、何から揃えたらいいのかが悩みどころと思いますが、最低限、ランヤードとビレイデバイスは、脳と心臓ぐらいに欠くべからざるアイテムでしょう。

ランヤードは、あなた自身を墜落から守る命綱です。
ダイナミックロープで出来ているランヤードであることが絶対条件ですが、メトリウスのPASか、ペツルのデュアルコネクトアジャストを買っておけば間違いないでしょう。
好みもあるとは思いますが、両方買った私はPASしか使わなくなりました。

ビレイデバイス用のカラビナは、必ずロック機能と反転防止機能が付いた、HMSカラビナで。
詳細を述べると日が暮れて夜が明けるので、割愛します。
ランヤードの先に着けるものも、ロック機能と反転防止機能が必須です。

edelrid(エーデルリッド)HMSストライクスライダー

林道終点から入渓、幕営地まで

矢立石駐車場から、一部崩落した林道を進むこと約1時間半。
暑くて汗ダラダラの林道歩きで、今頃は日向山はグリルだとO川は申しておりました。

林道終点の急斜面にボロボロのロープがありますので、切れないことを祈りながら尾白川を目指して下りましょう。
コワイと感じる方は懸垂下降でどうぞ。

急激に高度を下げ、尾白川のグリーンな清流に到達します。
暑い中、汗たらたらで歩いてきたので、もうドボンしたくてガマンできません!

躊躇なく水に飛び込みつつ、O川もやっちまえよ!と促しました。
一瞬ためらったかどうか分からないほど、すぐさま水に飛び込むO川の「ヒャッホーイ!」が聞けました。

この沢は、序盤から見所が満載です。
深くて大きな釜がすごいです。

南アルプスの天然水が飲み放題。

巻きは容易で明瞭です。
こっちから行けそうだな、と思う方で間違いないでしょう。

沢あるあるの、作ったとしか思えないような景色。
神の創造は人間を超えるということでしょうか。

O川の滝登り。
沢登りが初めてなのに、危なげなく登ってきます。
さすがの若さか、ボルダリングを多少やっているおかげか。

とにかくキラキラできれいな水が、日頃の憂さを流してくれます。
流しすぎて水が真っ黒になってしまうんじゃないかと、いつも思います。

幕営はハンモックで

予定通り、昼過ぎには幕営予定地に到着。
アプローチを含めて4時間半という、だいぶ余裕があるプランです。
幕営地に着いたら、まず一番にやらなければならないことを、O川に教え込みます。

それはビールを冷やすこと!!!
下戸のO川はドクターペッパーでした。

南アルプスの天然水がドリンクを冷やしてくれている間に、設営と薪集めです。
今回は二人ともハンモック泊。
偶然にも、O川もカモックのハンモックを持っており、これまでタンスの肥やしになっていたのが、この度南アルプスにて日の目を見ることになりました。
二人分のハンモックと、雨天に備えてのゴージュタープです。
幕営地は乗越沢との出合で、流れから十分な高さがある上に平らで、作ったのかと思うほど素晴らしい場所です。
焚火跡もたくさんありますので、ひと目でわかるでしょう。

カモックのハンモックは、コンパクトで軽くて丈夫でお手頃お値段で、ちょっとこれ以外の選択肢は考えられないですね。
これがあれば、傾斜地でも快適に寝られます。

ここでO川の思わぬ発言。
なんとスリーピングマットを持ってきていないというのです。

ハンモックだから、硬い地面の上に寝なくてもいい=マットいらない。

そう思ったのかもしれませんし、その気持ちは理解できます。
しかしマットは、硬い地面だけでなく、寒さからも優しく守るという重要な役割を帯びているのです。
もう9月だし、夜は絶対寒いし、シュラフでなくてエスケープビビィで寝るらしいし、かわいそうなので私のマットを貸しました。
そう、こんな時にもエバニューFPマットは大活躍です!
安いし軽いし(スマホ程度の重さ)、カットして使ってもいいし、最高すぎてもう1枚買おうかなと思うぐらいです。

私は基本、このエバニューのマットとサーマレストを持ってきていますので、一枚貸したところで問題ありません。
これも軽さの為せる業ですね。
しかも寝るまでは、ゴツゴツの岩の上だろうが、切り拓いた笹ヤブの尖った先端があろうが、無敵の強さで快適な座る場所を提供してくれます。


ちなみに、幕営地から見る乗越沢出合いはこんな感じです。
見逃して上流まで行ってしまったという記録を見たことがありますので、参考になれば。

Oh my 裸足のO川よ

薪集めもしなくちゃね。
焚火ができないと、雪でも降っているのかなーと思うぐらいの虫に悩まされます。
流木や立ち枯れた木を、全力で集めましょう。
のこぎりはマストアイテムです。
私はホームセンターで買える、ゼットソーを使っています。

O川が拾ってきたキモイ薪

寝床も薪も整いましたら、いよいよ乾杯です!
早く飲みたすぎて、写真も撮っていませんが、ちょっと想像してみてください。

運動して腹ペコ、暑くて喉が渇いた、清流で冷やされたビール、下界とは隔絶された源流の真っただ中・・・。

プシュッと炭酸が小気味よい音をたて、冷えたビールが喉に駆け込んできて胃がキューっとなる美味さときたら、最高と言う以外にないと思いませんか?

とりあえず一杯飲んだら、腹ペコには肉です。
今回はジンギスカンを、タレなし&ありで。
ガツガツ食いすぎて、写真はちょっと寂しい感じになってしまいました。

焼けたお肉をフォークで取るO川に、

私「お箸じゃなくて、フォーク派なの?」
O「お箸忘れた派です」

ジンギスカンを持って行くね、とO川に伝えてあったのですが、それに対しO川は、

「ちょっといいソーセージを持って行きます」

で、この田崎真也監修?のソーセージ。
田崎真也(ソムリエ)を知らなくて、生産者だと思ってたと言っていました。
なんか色々と、若さを感じられて心が和みました。

美味しかったよ!

沢泊でもテント泊でも、くつろぎの時間はゆったりとした靴に履き替えられると快適なもの。
特に沢の場合は、びしょびしょの靴を履いたままというのは、不快なものです。

しかし五本指ビブラムで鍛えられたO川の足裏は、既にビブラムと同性能を獲得していたのかもしれません。

裸足で水を汲みに行くO川

裸足で薪を切るO川

夜に備えて、明かりも準備します。
テントでも沢でも、たねほおずきが最高に活躍します。
自然に広がるあたたかみのある光が、太陽光充電式のランタンなどの軽量なものより、圧倒的に気に入っています。

夜はこんな感じです。
テントで使うと、おうちの照明のように、テント内全体をあたたかく照らしてくれて、本当に快適です。
これを使うようになってからというもの、キャンプの時にもガスランタンを使うことがなくなってしまいました。

登山にもキャンプにも、防災用品としても、役立ちます。

焚火は沢登りの醍醐味。
何の話に花を咲かせたかは、尾白川に流してしまいました。
しかしながら、おすすめホラー映画の件については、ちゃんとメモに残しておりましたので、後日観たいと思います。

飲めば飲むほど、体外に排出する水分も増えるのが道理というもの。
沢でのおトイレ事情は、水からは離れた場所ですることが基本です。
ということをO川に教えたところ、

「そうですね!沢に流したりしたら、南アルプスの天然水にO川がボトリングされちゃいますから!」

ひー、やめろー!

おやすみのシュラフは、ナンガのミニマリズム。
ペットボトル一本分以下の重さです。
小さすぎて体が入らないのでは?と思うかもしれませんが、かつて人に貸した時は、175㎝前後の男性でも十分に寝られました。
体感として使えるのは、残雪も消えた後から、9月半ばまでと言う感じです。

500mlナルゲンとの比較

乗越沢~鞍掛山~下山

沢の朝は、冷たい水に入りたくないという億劫さから始まります。
幕営地から早速の渡渉を経て、乗越沢へと滝を登るのですが、渡渉からして、
「ひ~、冷たい~、うへ~」
と言うのが常です。

しかし、大胆に滝の流れを全身に浴びながら登れば、ドーパミン全開で楽しさが溢れます。

乗越沢は、半分ぐらいが登れる滝だったか、シャワークライミングを楽しめます。
ぬめりが強まってきますので、たわしがあると心強いでしょう。
登れない滝は、巻き道も明瞭です。

「滝を登ることがこんなに楽しいとは思いませんでした!」by O川

流れはどんどん細くなり、源流感が増してくると同時に、アザミやトゲが鋭い植物があって、結構痛い。

沢を登り詰めていくと、やがて流れがなくなります。
水がなくなったあたりから、沢筋ではなくて右岸側(登っている際の、向かって左側)の斜面を上がっていくといいでしょう。
ずっと谷の部分を上がっていて、斜面が急すぎて行き詰まったというレポがありましたので、ひたすらに沢筋を目指すとよろしくないと思われます。
鞍掛山と駒岩の間のコルを目指して、なんとなく登っていけば、笹の中に結構明瞭な踏み跡があります。

コルから鞍掛山へは、気が向けば行ってみてください。
下山ルートとは反対側ですので、天気が悪かったり、ピークハントを目指していなかったりする場合は、行く必要がありません。
天気が良ければ、鞍掛山の先にある展望台からは、甲斐駒のサービスショットを拝めます。

展望台は若干ビーチぽい

展望台に到着したらガッスガスでがっかり。
ここに来たのは3回だけど晴れたのは1回だけで、打率三割三分。
なんだ、高打率じゃないか、と思いつつ下山しようとしたところ、急に晴れだす甲斐駒ヶ岳。

日向山へは、登山道をかなり下って、結構登り返します。
さっきまで爽やかな水を浴びていたのに、暑い中を歩くのはしんどくて、

「夏はやっぱり沢だな!!」

となるわけです。
O川ももう、沢なしでは生きていけないカラダになったでしょう。

頑張った後に出てくる、天空のビーチ。

日向山の山頂は、真っ白な砂のビーチのように美しく、ハイカーでにぎわっています。
ここからは駐車場まで下ること、1時間ちょっと。
下山後にカレーが食べたくて、ソワソワと焦りながら降りました。

下山後のお楽しみは、道の駅はくしゅうの野菜カレー。
定休や営業時間は、ウェブの情報があてにならないこともありますので、確実にということであれば、直接問い合わせることをお勧めします。
と言うのも、何度か食いっぱぐれたことがありまして、腹ペコの身には辛かったものですから。

地元野菜を使った野菜カレー

このカレーの野菜が美味しくて、特にズッキーニの小さいやつがホックホクで最高なんですよ。
これで900円、大盛無料なんです。
カレーの後は、ソフトクリームでシメですね。
この道の駅「はくしゅう」はスーパーが併設されており、地元の地酒「七賢」のラインナップがすごいです。

基本情報

過去の軌跡はこちらから

鞍掛沢~日向山 / 里美さんの日向山(山梨県北杜市)鞍掛山(山梨県)の活動データ | YAMAP / ヤマップ

グレード:1級上

JR長坂駅からタクシーで約30分で矢立石駐車場

マイカーの場合、矢立石駐車場(トイレなし)は駐車可能台数が10台程度のため、停められなかった場合は尾白川渓谷駐車場(トイレあり)から徒歩60分
いずれも駐車料金は無料

トータルの行動時間は10時間半程度で、日帰りも可能。

装備:トラブルがなければロープを出すような場所はない。