燕山荘がなぜ人気なのか
北アルプス燕岳のそばにある燕山荘は、数ある山小屋の中でも圧倒的な人気を誇っています。
収容人数650名、清潔な水洗トイレ、生ビールにケーキセットなど、今風の快適山小屋の草分け的存在です。
登山口から4時間ちょっとで小屋にたどり着くことができ、北アルプス入門編のルートであることも、人気の理由のひとつでしょう。
その歴史は1921年から始まり、現在は三代目オーナーである赤沼健至さんが燕山荘グループを経営しています。
三代目が燕山荘を引き継いだ頃、小屋の中は黒光りしていたとか。
その黒光りの正体は泥とカビだというのだから、今の燕山荘を知る人からすれば、信じがたいことでしょう。
昔の山小屋はそれが普通だったのかもしれませんが、
「燕岳がこれだけ美しいのだから、小屋の中も美しくなければ釣り合いが取れない」
と、小屋内を徹底的に手で雑巾がけすることを始めたそうです。
これに当時の従業員は猛反発し、幹部社員の半分が辞めて、翌年また半分が辞めてしまったということですが、現在では燕山荘グループの雑巾がけは名物のようになっており、きれいな小屋として人気を集めています。
夏の燕岳
冬の燕山荘へのアクセス
厳しい寒さと雪に閉ざされる冬の北アルプスは、容易に人を寄せ付けません。
その中で燕山荘は年末年始営業をしており、期間中は小屋のスタッフがつけてくれたトレースをたどって、ラッセルなしで行くことが可能です。
ただし、中房の登山口への道路は宮城ゲートで封鎖されているので、登山口まで約13キロを歩く必要があり、登山口まで4~5時間かかります。
冬期の駐車場は、有明山神社駐車場を使うようです。
ゲート手前の冬期臨時駐車場は2023年から使えなくなったと、燕山荘のHPに書いてあったことに、下山してから気づきました。
さあ、ひたすらに続くゆるやかな登りのスタートです。
中房まであと12.2キロか・・・。
チェーンスパイクなしでも問題なかったですが、路面が凍結している可能性もあるのでご注意ください。
冬にここを歩くのは2回目ですが、これからも色んな人と歩くんだろうな。
猿が路上でノミ取りしていました。
この寒さの中、たくましく生きていますね。
心拍数120をキープしながら、ただ一人、ひたすら修行のように歩きます。
とにかく長いので、しばらく歩くのをさぼっていた足腰には辛かった。
まずは中房温泉で野営
やっと登山口に到着です。
この建物は閉まっていますので、テントの受付は橋を渡った奥にある、中房温泉にて。
受付で住所を書いたら「おや、地元だね!」と言われました。
はい、ご近所です。
1名1張りで2,000円、水は無料で汲み放題(建物前面に水場あり)、950円で入浴もできるそうです。
11時~14時は食事もとることができ、牛丼、うどん、カレーがそれぞれ1,000円です。
登山口にあるトイレは冬期閉鎖中ですが、裏側に冬期用のトイレがあります。
ただしひとつしかなく(当然男女別ではない)快適とはいいがたいタイプのトイレなので、ちょっとだけ歩きますが、中房温泉よりの所にあるトイレがおすすめ。
テント場の様子。
温泉の地熱があるので、雪は少なめです。
どの辺が設営していい場所なのかよく分かりませんが、適当によさそうな場所に設営。
今回は軽量コンパクトにすべく、クロスオーバードームにしました。
たねほおずきは、マグネットのおかげでこういうぶら下げ方ができるのが素晴らしい。
それに何より、明るさと見やすさが抜群なのがいいんですよね。
これは電池式ですが、最近は充電式も発売されたようです。
冬はやっぱり熱燗でしょう!
つまみは鯛の昆布じめです。
寒いから生ものも安心して持ってこられます。
夜の中房温泉のたたずまいが素敵ですね。
登山口~燕山荘
翌朝、Nおじさん合流。
仕事の都合で深夜に運転してきて、朝4時半から歩き始めて一気に燕山荘まで歩くという、タフな行程です。
登山口からは、樹林帯の急登です。
小屋に着いたらビールにするか、熱燗にするか、つまみはどうのと話しながら、ひたすら登ります。
よくじいちゃんが作ってたんですよ
合戦小屋を過ぎたあたりから森林限界を超え、景色がよくなってくると同時に、寒さも厳しくなります。
遠くに槍ヶ岳の姿も見えてきました。
いかに冬の入門ルートとは言え、森林限界から上の寒さと風を甘く見てはいけません。
青空が最高!
シュカブラの上を、カミソリのような風が雪煙を空へと巻き上げて行きます。
寒くて辛いのに、やっぱり冬山もいいな、生きているってこういうことだよな、としみじみ。
毎日下から見上げていますが、こんなに晴れるのは10日に1回程度じゃないかと思います。
燕山荘が見えてきました!
前回来た時は天気が悪く、シルエットすら見えませんでしたが、冬の燕岳をようやく見ることができました。
思わず息を吞む美しさですが、写真では本当に伝わりません。
冬の燕山荘内部
冬の燕山荘です。
深い雪の中からスタッフが頑張って小屋を掘りだしてくれたのでしょう、小屋の周囲は雪もすっきりしています。
玄関前には袋に入った雪が置いてありますが、水を作るのも大変だなぁ。
これだけの雪の量があったって、水にしてしまえばちょっぴりにしかなりませんからね。
なので、夏は無料で水が汲めますが、冬はペットボトルの水を買う必要があります。
冬はこんなプレゼントが。
ペットボトルの水と、DARSチョコです。
お湯はセルフ方式で販売されており、500mlで200円。
雪の重みに耐えられるよう、食堂内は筋交いで補強されています。
夏はこの奥にサンルームがあって、生ビールやケーキを楽しむことができますが、冬は閉鎖中。
自炊室も冬期は使えないようです。
寝床はカイコ式。
今回、この3名用のスペースを2人で使えました。
ひとりで泊まっても、スペースごとにロールカーテンがあるので、比較的プライバシーが保てる作りになっています。
売店で熱燗を買うことができました。
岩波に溺れて、夕焼けを見るのをすっかり忘れてしまったことが、悔やまれて仕方ありません。
そしてなんと、氷まで持ってきたNおじさん。
氷とか、その辺にいくらでもありそうなものですが、なめられちゃいけねぇんで持ってきたらしいです。
スコッチをロックでいただきます。
こりゃ今回も思い出は全て残置だな。
包丁まで持ってきていました。
青のりを忘れたのが痛恨ですが、「ちくわの磯辺揚げ風」は火を使わずにできる簡単なおつまみで、山で重宝します。
縦半分に切ったちくわに、マヨと揚げ玉と紅ショウガをのせて青のりをかけるだけ。
下山は吹雪
31日に下山しましたが、朝はちゃんと吹雪でした。
燕岳の姿はありません。
昨日の青空とは打って変わって視界も悪く、足元の凹凸もよく見えません。
雪に埋もれた合戦小屋。
登るのは大変でも下山はあっという間です。
道中、今夜の大晦日を燕山荘で過ごそうという人たちと、たくさんすれ違いました。
もうすぐ中房の、第一ベンチ地点でヤニ補給するNおじさん。
岩井谷の増水から脱出する時、厳しい状況下にもかかわらず煙草を吸おうとして、同行者に怒られたと言っていました。
下山後は、更に1名と合流して、3人で安曇野BASEにて年越しです。
お土産にたくさん日本酒を持ってきてくれました。
この他に一升瓶もあり、日本酒だけでトータル1.8升という豪華なお土産。
ビールで乾杯してウィスキーも飲んだのに、翌日、一升瓶はほぼ空になっていたという・・・。
安曇野に移住してから初めての年末年始、仲間と楽しくわいわいやれて、最高の年越しになりました。
実家に顔も出さず両親には申し訳ないのですが、それはまた別の機会に、信州の地酒でも持って行くことにしましょう。
冬山登山のススメ
山をやらない人や、冬山をよく知らない人からすると、冬山登山と聞いただけで「死の世界」ぐらいなイメージを持つかもしれません。
しかし実は、ちゃんとした装備と知識を身につけた上で適切な行先を選べば、初心者でも十分楽しめる場所がたくさんあります。
とはいえ、厳しい環境であることには違いありません。
たとえばこんなことがありました。
とある年末年始、甲斐駒ヶ岳と仙丈ケ岳に登った時のことです。
同行者には事前に冬山の注意事項を伝えていたのですが、にもかかわらず飲み水をペットボトルで持ってきていました。
案の定、北沢峠に着いた時には完全に凍ってしまい、ナイフで切って中身を出して捨てることになりました。
本人いわく、いくら寒いといっても歩いていれば水もシェイクされるし、芯まで凍ったりしないだろうと思ったとのこと。
これはかなり稚拙な例でしたが、冬山は夏山とは相当異なります。
講習や訓練に参加したり、経験者に連れていってもらうなりして経験を積めば、とんでもない絶景にも出会えることでしょう。
スキー場に毛が生えたぐらいの場所でも、新鮮な驚きがあるはずです。
あなたの人生を、より豊かにする可能性がある冬山。
その美しさに触れてみませんか?
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