沢登りか、渓流釣りか?それが問題だ。
イワナ釣りの聖地とも言うべき薬師沢小屋を起点として、二泊三日の行程を組む時、この難しい選択を迫られます。
それはなぜか?
折立の登山口から薬師沢小屋までは、休憩なしのコースタイムで6時間10分。
途中、太郎平小屋でカレーを飲む時間も考慮すると、遅くとも8時には登り始めたいところです。
そうなると、私が住む松本からのアクセスでも、早朝に出発せねばなりません。
ましてや東京からだと深夜から出発することになり、仕事終わりからの仮眠→長距離運転→6時間以上の登山、というハードスケジュールになります。
ということで、二泊三日の時間を確保しても、沢登りと渓流釣りの両方を存分に楽しむのには、体力をかなり消耗してしまい、だいぶ辛い。
カレーもラーメンも食べたいけど、両方食べるのはきつい、という感じでしょうか。
いずれにしても、運転含め長時間行動になるのにもかかわらず、ひょうきん担当のNおじさんは前日の夜、部下のやらかしのためにお客様の自宅にまで謝罪に行って帰宅が22時を回り、徹夜でハンドルを握る羽目になったという・・・。
もし、その原因となった人がこの記事を見て、
「やべ、俺のことだ」
と思ったら、Nおじさんにビールの一杯でもご馳走してあげてください(笑)
※この記事はプロモーションを含みます。
ウリ坊駆ける、奥飛騨郷
帰宅後あわててパッキングをし、徹夜で中央道を走ってきたNおじさんと、道の駅風穴の里で合流します。
待ち合わせ時間は午前4時半。
ここから1台で折立へ向かえば、Nおじさんは寝ていけるはず・・・だったのですが、結局ワイワイしたまま折立へ到着してしまいました。
松本インターから折立へ向かう際は、カーナビやGoogleマップだと、41号をひた走って大沢野方面からぐるっと回るルートを案内されるかもしれません。
しかし、そんな遠回りをする必要はありません!!!
デイリーヤマザキ上宝店の手前を右折すれば、30㎞は短縮できます。
このT字路を双六谷方面へ曲がる
ちなみにデイリーヤマザキの向かいにある「和二の蔵」は、眺望の素晴らしい食事処で、時間が合えば必ず寄っています。
ランチは14時までなので、間に合わないと泣きを見ます。
国道471号を右折し、しばし金木戸川の青い流れを右手に見ながら走ります。
釣りにも水遊びにも人気の川で、車で行けるのにこの美しさ!?
道中、ちょろちょろ走っている動物がいたので、猿かと思いきやのウリ坊!
かわいいけど背ロースは小さそうです。
でも柔らかくておいしいかな・・・さばくのもラクそうだし・・・。
猪は一度さばいたことがありますが、皮をはぐのが大変でした。
そういえばその時に使ったナイフは、けいこ(薬師沢小屋支配人、やまとけいこ)からもらった物でした。
刃物はいくつあってもいい!

折立~薬師沢小屋
予定よりもだいぶ早く到着し、7時過ぎには歩き始めることが出来ました。
そんな時間帯の平日でさえ、折立は車でいっぱいで、さすがは人気の登山口です。
そして折立と言えば、毎年出没している定番のクマ。
駐車場で支度をしている間にザックをとられたとか、窓が少し開いていた車が、中をズタボロにやられたとか、油断なりません。
トイレに入る時も、ザックを抱えたまま行きます。
こんな貼り紙を見るたびに「クマりますね」を連発するNおじさん

もう何度登ったか知れない折立からの登山道を、暑さにひーひー言いながら登ります。
そして背中がかゆい。
先週の夏休みにどっぷり沢と山に浸かってからというもの、体が仕事を拒否しているようです。
仕事アレルギーで背中がかゆいのです。
黒部の水で洗えば、きっとかゆみも治まるでしょう。
今回は小屋泊で身軽に登るはずだったのが、結局あれもこれもザックに詰め込み、普通に重い。
酒とつまみもさることながら、薬師沢小屋へのお土産として、箱入りのシャインマスカットを持ってきたのがきいています。
しかし、けいこが薬師沢小屋にいる間は、手ぶらで行くわけにはいかない、というのが私の矜持ですから、仕方ありません。
「太郎に着いたらノンアルコールビール飲みたい!」
「だよねー、もし売り切れてたらどうする?」
「五十嶋(太郎グループ経営者)呼んでこぉ~いっ!!!ってキレるね」
とかアホなことを言いつつ、太郎に着いたらビールとカレーを飲むんだと思うものの、これはフラグではという思いが頭をかすめました。
ちなみにかつて、汗だくでたどり着いた双六小屋でビールが売り切れだった時は、「この世の終わりかな?」と思いました。
道沿いには、毎年見るおなじみの花たち。
いつ来ても、この道はいい。
ヤマハハコ・・・チチカカ湖?

太郎平小屋に到着し、売店に行ったところ、ノンアルビールはまさかの売り切れ。
しかし、「五十嶋呼んでこい」どころか、ご本人が売店に座っていらっしゃったというオチに苦笑いしつつ、ノンアルレモン酎ハイ(甘くないレモンスカッシュとどう違うのか?)を買いました。
これはこれで、悪くなかったです。
Nおじさんはカレーを注文するのにも、大盛にするかどうかで、
「なめられちゃぁ、いけねぇんで」
が始まっていました。
ガスって寒い太郎平

カレーはいつでも裏切らない。
英気を養って、薬師沢小屋へ下り始めます。
登りの登山道はあんなに暑かったのに、太郎平は寒くて上着を羽織ることになり、下り始めたらまた急に暑いし、脱いだり着たりが忙しい。
暑い暑い言いながら下り、橋からちょっと降りて水遊びしますが、水量は少なくとも水は冷たい!
手拭いを水に浸して首にかけ、その冷たさに、
「あひゃひゃひゃ!!!」
となります。
沢って、一度やってしまったらやめられない、何かあぶないクスリかもしれません。

太郎から薬師沢への下りも、花が咲き乱れる天国の様相。
サラシナショウマが満開で、夏の終わりが近いことを告げています。
沢をやるまでは夏が嫌いだったのに、今では夏が終わるのが惜しくてなりません。

黒部の沢音が聞こえてくると、小屋はもうすぐそこ。
もう間もなく、黒部の流れが見える・・・!けいこに会える・・・!
ついつい半ば小走りで駆け寄る、樹々の間から沢が見える場所。
黒部は変わらぬ美しさで流れており、背中のかゆみも、沢で負った心の傷も、瞬く間に全て流されていきました。
音が聞こえるくらい、胸が「キュンッ・・・」と締め付けられます。
イケメンより黒部が好き

薬師沢小屋、1日目
見慣れた小屋の、見慣れた受付。そして変わらぬけいこの姿。
この春、松本で会いましたが、いつ会っても嬉しいものです!
「よく来たねー」
「うん、本当は3人で来るはずだったんだけどね、かくかくしかじかまるまるうしうし・・・」
と、怪我のために来られなかった仲間の件を報告しました。
今日から二泊するのだし、詳しい話は後ほどということで、
「ビール冷やしてあるからね」
と、けいこは黒ラベルのロング缶を2本出してきてくれました。
女神か!?
小屋前のテラスは満員だったため、川沿いまで降りて黒部の流れでビールを冷やしながら飲む!
くぁー!!!最高!!!
CMに使えちゃうね!

最高かよ!としか言えません。
エバニューのマットでごろ寝。

Nおじさんも同じくエバニューのマットを愛用。
安い、軽い、かさばらない、三拍子そろった、全人類1枚は持つべきマット。

イワナちゃん、遊んでくれるかなーと竿を出してみる。

遊んでくれないんで、飲もう飲もう!

キムチにセロリのスプラウトを乗せたおつまみ、爽やかで美味です。
保冷バッグに入れて持ってきました。
このお皿はプラスチック製で、軽いしかさばらないし、なんかいい感じで気にっています。

夕食までダラダラ飲んでいると、Nおじさんの様子がおかしい。
どうやら眠いようです。
そりゃそうですよね、仕事終わりから寝ずのまま、ここまで来たんですから。
「少し寝た方がいいんじゃないですか?」
「いえ、寝なくても大丈夫です。我慢強いんで。」
「あっそ、じゃあ絶対に寝られないように吊るしてやりますよ?吊るすのとか得意なんで。」
「えっと、吊るしあげられるのは得意です。」
とりあえず河原で少し寝ました。
そんな時も、エバニューのマットは優しい。
しつこい?でも本当にいいんですよ!
2日目、薬師沢釣行
気絶から目覚めたら、朝5時からの朝食をいただきまして、食後はゆっくりティータイム。
今日は薬師沢を釣り上がり、第3渡渉点から登山道で小屋へ戻ってくるだけなので、出発もゆっくりです。
Nおじさんがチャイを作って、ちょっと席を外したすきに、やってきたけいこ。
おもむろに私の隣に座り、
「ふぅー」
と、チャイを飲み干しました。
俺のチャイ けいこに奪われ ごめんチャイ
と一句詠んだかどうかは不明ですが、薬師沢に要高巻きの箇所があるかを、けいこに聞いておきました。
近頃はやりの「ごめんチャイ」

モンベルのトレイルチャイよりも元気が出る感じのお味
薬師沢小屋は、あらゆる意味で面白い、変わった小屋です。何せ小屋番が変わってますから。
黒部本流と薬師沢の出合いという立地もなかなかですが、普通に山を歩く人、沢登りをする人、渓流釣り、パッククラフトなど、多種多様な楽しみ方の人たちが集う場所です。
何度来たか分からないなぁ、ポイントカードあればいいのにと思ったら、ありました。
知らなかった・・・。
小屋の本棚も釣りに関するものが多い

先週の湯俣からキャリーオーバーした、イワナしばき棒。
釣れたらこれでしばいてシメます。

朝の水は冷たく、踏み込むのがためらわれますが、それも最初だけ。
私はテンカラで、Nおじさんはミノーイングで釣り上がります。
イワナが毛バリをつついた感触が手に伝わると、興奮して足の冷たさなんてどこへやら。

薬師沢の美しいことと言ったら、予想を遥かに超えてました。
赤木沢のように変化に富む渓相ではありませんが、美しさでは全く負けていません。
沢登りと言われればつまらないかもしれませんが、釣り上がるなら天国です。

そりゃ、泳いじゃうよね。

圧倒的、碧の美渓!!!
出てくる言葉は「いいねぇ~!いいねぇ~!」ばっかり。

しかし釣り人に人気な分、イワナちゃんはスレ気味。
私のキャスティングには騙されてくれず・・・。
弾丸のように泳ぎ去る姿を、指をくわえて見送るのみ。

しかしなんとか、ミノーで1匹ゲット!
「シャルル」と命名されました。
在りし日のシャルル

しばき棒の出番です。
シャルルはお刺身になりました。

沢のランチは素麺が最高です。
美味しすぎて、もう下界で素麺は食べられません。
しかし2人で6束は、さすがに苦しい。

その後、アタリもなく単調な浅瀬を遡行し、このまま終わりかなと思っていたところに、現れた大きな釜!
うぉー!!!すげーーー!!!
なにこれきれい!!!!

右岸の高い所から覗くと、大きなイワナがうようよいます!
「うっわ!!すっご!!!」
ミノーを投げると、スーっと追いはしますが、イワナからはなんか怪しいぞ?と思われている模様。
それでも、メタリックで派手な色のミノーを追って、何匹ものイワナが寄ってくる様に二人とも大興奮が止まりません。
「あー!あとちょっと!惜しい!!!」
「お?お?お!?来るか!!?」
「来い来い来い!!!」
そしてついに1匹がキラキラと宙を舞う・・・そして落ちたー!!!
「ああーーー!!!」
と思ったら、岩のくぼみにシンデレラフィットして釜に落ちず、1匹ゲット!
私が美しい三枚おろしにして、お刺身で頂きました。

大満足で小屋に戻り、メインイベントまでは2階の小さなベランダで酒盛りです。
薬師沢が見えるベランダで、今日の釣行を振り返りながらワイワイやっていると、インテリが服を着たような老紳士が我々の会話に入ってきました。
水質調査をやっているらしく、この薬師沢出合の水は大変ピュアできれいだとのことです。

さて、メインイベントとはなんぞや?
それは皿洗いです。
料金を支払って小屋に泊まるのに、お土産を持って行き、更にお手伝いまでするという。
そう、けいこは常連使いが上手いのです。
お客さんの夕食が終わった17時半ごろから皿洗いが始まり、片づけを手伝った後、スタッフと一緒に我々も夕食を頂き、そのまま酒盛り第2弾。
面白いエピソードがあったら忘れないようにメモを取るのですが、翌日、
「あいつは黒部の藻屑になったのか?」
というメモを見ても何のことか分からず、私の記憶が黒部の藻屑です。
帰りたくない3日目
「帰りたくないなぁ」
「本当に帰るんですかぁ?」
そんな言葉しか出ない、気が重い最終日。
なんだか背中もかゆくなってきました。
一体何日いたら、下界に帰りたくなるんでしょう?
泣く泣くけいこ達に別れを告げ、太郎への登り返しが始まります。
花たちよ、せめて我々を癒しておくれ。

天気がよかったので、太郎山のピークも踏んで薬師岳を拝もうか、と言っていたのに急にガスりだす。
太郎山はヤメヤメ!と、太郎平でぐずぐず休憩することにしました。
おつまみの残りを出して、
「カルパスどうぞ、カルパスは世界を救いますから。何とかパス界で一番ですから。」
「他に何パスがあるんですか?」
「・・・・パスで。」

太郎から折立まではトイレもありませんから、行っておかないとですね。
「トイレ行ってきます」
「いっトイレ」
「お便器で」
古典は大事にしなきゃならないんで、ちゃんとお約束は守ります。
戻ってきたNおじさんと、
「お便器でしたか?」
「相変わらずでしたよ」
というサゲまでちゃんとやりました。
「帰りたくない」と1万回は言いましたが、景色がいいとなんだかんだでテンションが上がってきます。
「アサギマダラだ!」
2匹、我々の周りをひらひらと舞い、存分にその可憐な姿を見せてくれました。

下山の時も登山道に熊が出たらしく、Nおじさんの
「クマりましたね」
が絶好調です。
後から知りましたが、私たちが登ってきた8月20にも登山道上に出没し、登山者が映像に収め、ニュースになっていました。
暑い暑いと言いながら下山し、「和仁の蔵」でカレーを飲もうかおにぎりランチにしようか悩み、着いたらランチが終了していて泣きを見て、道の駅上宝の「いちすけ」でカレーリベンジ。
この暑さにエアコンのない「いちすけ」。
しかしメニューにあった「イワナ天丼」が気になって仕方がないので、また今度来ることにします。
それにしても、薬師沢はきれいだったな・・・。
今年中に、また行きそうな予感がします。